豆知識

狭心症の時の歯科治療

狭心症や心筋梗塞が分類に含まれる虚血性心疾患とは、何らかの原因によって心臓の筋肉すなわち心筋に酸素や栄養を供給している冠動脈系の狭窄や閉塞により生じる心筋への血行障害のことになります。

この中で心筋細胞の壊死が見られるものを心筋梗塞、壊死が見られないものを狭心症と呼んでいます。

狭心症には、階段や坂道を登ったり、重いものを持った時などの労作時に発作が見られる、身体を動かした時の心筋の酸素受需要の増大に伴って冠血流量が不足したために発症する労作性狭心症の他に、労作時以外に就寝時などの安静時にも発作が起こる安静時狭心症、安静時に発作が生じ心電図においてST部分の上昇の見られる異型狭心症などがあります。

狭心症の患者さんには血栓やプラークの発生を抑える抗凝固薬が使用されていることがあります。

人間の血液には、出血した時に血を固めて止める機能がありますが、抗凝固薬が投与されていると逆に血が止まりにくくなってしまうのです。

したがって、出血を伴う処置を行う時は担当主治医と処置に対する可否や薬剤の量の変更などを相談する必要があります。

参考までに、心筋梗塞の発症後3ヶ月以内は歯科診療は禁止、発症後6ヶ月以内は出血を伴う処置は避けて対症療法にとどめるとされています。

心疾患の患者さんの歯科治療には、慎重の上にも慎重が求められているのです。

パーキンソン病の時の歯科治療

パーキンソン病とは、脳の「中脳」の「黒質」と呼ばれる部分の神経細胞が異常を起こした結果、 中脳黒質で作られている脳内の神経の働きに必要な「ドーパミン」という「神経伝達物質」が不足し発症する病気なのです。

このパーキンソン病では、生命維持や本能的動作に関わる無意識的な運動をコントロールする「錐体外路(すいたいがいろ)」の働きが損なわれてしまいます。

症状としては、動作の緩慢、手足の震え、筋肉の強ばり(固縮)、様々な歩行障害、等が挙げられています。

日本におけるパーキンソン病の発病率は10万人当たり100~150人といわれていて、その多くが中年以降に発症する病気で、ほとんどが初老期(50歳代後半)に発症しています。

歯科領域に関係するパーキンソン病の症状としては、まず、口をもぐもぐさせたり、舌を出したり唇を常になめ回したりする不随意運動(無意識に行う運動)を意味するオーラルディスキネジアが挙げられます。

また、食べ物を口に入れて食道へ飲み込むことを、「嚥下(えんげ)」といいますが、身体を円滑に動かすことができないパーキンソン病の患者さんでは、飲み込む機能がうまく働かないので、嚥下障害になってしまうのです。

そのため、食べ物を誤って気道に飲み込む「誤嚥」にも注意が必要になってきます。

さらに、口腔の筋機能の低下と治療薬の副作用に伴って、唾液の減少が起こり口腔内が非常に乾燥します。乾燥することによって、口腔粘膜の抵抗力が弱くなり傷に対する治りが非常に悪くなってしまいます。

パーキンソン病の患者さんの歯科治療は、担当主治医との綿密な連携の上で慎重な治療計画をたてながら進めていきます。

前述のオーラルディスキネジアによって義歯が不安定となるので、義歯の設計にあたっては着脱やアフターケアの利便性なども考える必要があります。

実際の治療時には転倒や起立性低血圧に注意しながら、血圧のモニタリングも必要になってきます。

肝炎の時の歯科治療

日本人の肝臓病の80%は、肝炎ウィルスが関与しています。

ウィルス性肝炎は、ウィルスによってA型・B型・C型などに分類されています。

まずA型肝炎ですが、食事により感染する一過性の急性肝炎で、一般的には慢性化はしませんが、重い劇症肝炎になる場合があります。

次のB型肝炎は輸血などで感染して、これも慢性化や劇症肝炎になるケースがあります。

怖いのは母子感染の場合で、母親から感染した子供はウィルスの保菌者となり、肝硬変や肝細胞癌に進行することがあるのです。

 

さらに深刻なのがC型肝炎になります。

C型肝炎は輸血などで感染して、その大部分は慢性肝炎に移行してしまいます。

慢性化すると肝硬変、肝細胞癌に進行するケースが多くなってきます。

 

その他の肝臓障害としては、過剰なアルコール摂取による「アルコール性肝炎」や、薬や肥満が原因の肝障害が挙げられます。

肝炎の患者さんの歯科治療では、まず院内感染の防止を講じる必要があります。

歯科治療では、抜歯などで出血を伴う処置が多くあり、ウィルス性肝炎では血液や唾液感染の恐れもあるのです。

また、肝障害が重度になると血液凝固因子の減少が原因で、外科処置後に出血が

止まりにくい状態になることがあります。

さらに肝障害によって、赤血球や白血球の破壊を進行するので、貧血や感染症を

起こしやすくなったり、傷が治りにくくなる傾向があります。

肝炎の患者さんの治療を担当する歯科医師は、なるべく生体に対するダメージの少ない治療が求められるのです。

糖尿病の時の歯科治療

歯科治療を行う時に、糖尿病であることは実はかなり問題になります。

糖尿病をきちんと治療していない人は、歯科治療で大変な事になるリスクがあるのです。

歯科治療において、糖尿病の影響として最初に考慮しなければいけない点は、糖尿病患者の血液中には糖が過剰に存在していて、血管中のタンパク質と反応して血管が傷ついている点です。

糖尿病が原因で動脈硬化が進み、高血圧や心臓病、脳卒中などを引き起こすリスクが生まれてくるのです。

そして、糖尿病の影響として次に考えなければいけないのは、体内の化学反応がおかしくなってしまい、免疫機能が正常に働かなくなってしまう点です。

糖尿病患者はほんの小さな怪我でも、普通には治らないで膿んだり壊死してしまう深刻な場合もあるのです。

この糖尿病は全身の病気ですから、歯科領域にも影響が出てきます。

そもそも、歯周病と糖尿病は相互に症状を悪化させる関係にあります。

歯周病が悪いと菌が出す毒素でインシュリンの効きが悪くなり、糖尿病を悪化させると歯周病菌を攻撃する免疫力が著しく低下してしまうのです。

糖尿病の治療を受けておらず、空腹時血糖値が120mg/dlを超えていて糖化ヘモグロビン(HbA1c)の値も高い方、また、治療を受けてはいても130mg/dlほどある患者さんの場合、感染による重症化を回避する為に血糖値のコントロールができるまで歯科治療を延期する場合があります。

治療中の低血糖発作のリスクや普通の麻酔が使用できない等、糖尿病患者の歯科治療には様々な障害が生まれてきます。

糖尿病や、糖尿病の合併症をお持ちの患者さんには、歯科治療をする際にも特別な配慮が求められるケースがあり、治療中の内科医師との連携をとりながら治療を進める必要も出てくるのです。

高血圧の時の歯科治療

医学の進歩とともに人間の寿命は大きく延びました。

特に日本は世界有数の長寿国でもあり、この事は同時に深刻な高齢者問題と向き合わなければいけない状況を意味しています。

年齢を重ねるごとに、当然の事ながら「持病」ともつきあわなければならず、高齢者になるほど、毎日何らかのお薬を服用される方が多くなっています。

この「持病」は症状の低いものから大きいものまで色々あり、代表的なものとしては高血圧症などが挙げられます。

高血圧症はお薬などでコントロールされている場合、歯科用局所麻酔を打った直後は一時的に血圧が上昇しますが、殆どの歯科治療において大きな問題とはなりません。

しかし、収縮期血圧が160mmHgを超えると、抜歯後に血が止まりにくいなどの症状が出るケースがあります。

降圧剤などのお薬を飲まれて入る方は、普段から習慣的に自宅で血圧を測定されていると思いますが、歯科受診日に血圧測定をされて、平常より高目の数値であった場合は必ず担当医師に申告するようにして下さい。

降圧剤を服用して正常範囲にコントロールされている場合には、高血圧薬との相互作用に注意して歯科治療を行っていきます。

一般に降圧剤は朝は必ず処方されていることが多いので、歯科治療は午前中が望ましいとされています。

治療開始前には必ず、当日の血圧の申告、または測定して、その日の降圧剤の服用の確認を行います。

もし、高血圧の患者さんが血圧のコントロールをされていない場合には、コントロールが良好になるまで歯科治療を差し控えます。

また、治療時の痛みによって血圧の上昇が予測されるケースでは、鎮痛剤などの薬物療法を原則としています。

高血圧症に限りませんが、歯科医の立場として全身疾患を持つ患者さんに対しては主治医と連携しながら、より安全に治療を進める事が求められているのです。

病気がある時の歯科治療

他の病気で治療中の患者さんは、なかなか同時進行で歯科治療を進めるのは難しいかも知れません。

しかし、逆説的にいうなら、他に病気があるなら特に歯科治療を進める必要があるのです。

例えば、日本人の死因の1位にランクされる癌ですが、安全で苦痛の少ない良い癌治療やおだやかな療養生活を実現するには、適切な口腔ケアが不可欠ともいえるのです。

癌の患者さんの口腔を健全に保つことで、しっかり食事をして体力をキープして、口腔細菌が原因になる他の感染症のリスクを下げ、癌治療による口腔合併症のリスクを軽減することに繋がります。

また、癌の外科手術の前後に口腔ケアを行うことによって、術後肺炎のリスク軽減、気管挿管時におけるリスク軽減(歯の破折、脱落など)、食道手術における術後合併症のリスク軽減が期待できるのです。

ある外科病棟に入院した患者約3300人を対象とした研究では、手術の前の術後肺炎予防プログラム(呼吸器リハビリ、及び 口腔ケア)の実施により、術後肺炎の発症頻度を1/4に減少させています。

口腔内の歯周病菌が発生と進行に影響を与えているとされる疾患を羅列してみます。

生活習慣病である高血圧や糖尿病、心弁膜症、狭心症、膠原病、パーキンソン病、肺炎、脳梗塞、心筋梗塞、他にもありますが様々な病気に歯周病が関連しているのです。

歯周病の予防と治療は、万病を回避する近道ともいえるのです。

癌と歯周病

様々な病気の発生要因と言われている歯周病ですが、実は癌との関連も指摘されているのです。

国立がんセンターの調査によると、食道癌の細胞からトレポネーマ・デンティコーラという歯周病菌が高い割合で検出された事が報告されています。

研究チームが患者20人の癌細胞を採取し、菌種を特定するためDNAを増幅して約2000検体を分析したところ、トレポネーマ・デンティコーラがなんと32%をも占めたそうです。

食道癌の細胞には複数の細菌がいるとみられているので、この歯周病菌と食道癌との直接的な関連については断言はしていませんが、口腔から食道粘膜に下りてきたトレポネーマによって炎症が発生して、それが継続すると正常細胞のDNAが傷ついて最終的に発癌に結びつくという可能性が考えられるということです。

また、2008年のロンドンのドミニク・ミショー博士らの発表によると、歯周病歴のある男性医療専門家を対象にした長期研究で、癌を患う可能性が全体的に14%も高いことが判明しました。

博士の論文では「喫煙その他のリスク要因を考慮したとしても、歯周病は膵臓や肺、腎臓、血液の癌のリスク増大と大きな関連性があった」と報告されています。

日本人の死因のトップである癌と歯周病との関連性が複数の研究機関から報告されたことにより、今後の歯周病に対する予防対策がより求められることになります。

歯周病は口の中だけに留まらない深刻な病気なのです。

認知症

人間の歯の働きは食べるという咀嚼機能だけではありません。

物を噛むという行為は、同時に脳を刺激しているのです。

歯と歯を噛み合わせた時の刺激は、歯根にある歯根膜から脳に伝達して、その刺激は脳における感覚や運動、また記憶や思考、意欲を司っている部位の活性化に繋がっているのです。

神奈川歯科大学の研究結果によると、残存している歯の数が20本以上ある人と比べて、歯が無くなって入れ歯も入れていない人の認知症リスクは1.9倍と報告されています。

また、東北大学が行った研究からは、高齢者の歯の残存数と認知症との関連性を知ることができます。

この研究によると、健康な高齢者では平均14.9本の歯が残っていたのに対し、認知症の疑いのある人では僅か9.4本と明らかな差が見られたのです。

それだけではなく、残っている歯が少なければ少ないほど、学習能力や記憶に関わる海馬や、思考の機能を司る前頭葉の容積などが少なくなっていた事が判明しています。

歯が無くなると、脳が刺激されなくなり、脳の働きに悪影響を与えてしまうのです。

アミロイドβ蛋白とはアルツハイマー型認知症の原因と考えられている物質です。

広島大学は世界で初めて、よく物を噛む事が出来る正常なマウスと、々歯がなく柔らかい物しか食べられないマウスを比較した研究を行いました。

その結果、歯のないマウスの方には、大脳皮質にアルツハイマー型認知症の原因と考えられているアミロイドβ蛋白が沈着し、さらに、記憶や学習能力に関わる海馬の細胞数が少なくなっている事が判明したのです。

つまり、物をよく噛んで食べる事ができなければ、アルツハイマー型認知症を引き起こしてしまう確率が高くなってしまうのです。

メタボ

近年、メタボリックシンドロームが問題視されています。

このメタボとは、内臓に脂肪がたまり、肥満や高血糖、高血圧などの危険因子が重なった状態を言います。

また、動脈硬化の発症や進行を加速度的に進め、脳卒中や心筋梗塞、糖尿病などの生命に関わる病気の発症率が一段と高くなってしまうのです。

 

生活習慣病には沢山の種類があり、ひとつの病気を持っていると他の病気も併発しやすい傾向が顕著です。

実は、歯を支える骨を溶かしてしまう歯周病も生活習慣病の一つなのです。

この歯周病を放置したままにしていると、最終的には歯がグラグラして抜けてしまうこともあります。歯周病は中高年のなんと8割に発症すると言われており、成人では歯を失う最大の原因となっています。

歯周病は患者数がもっとも多い生活習慣病であるとも言われています。

このメタボリックシンドロームと歯周病の両者には、密接な関係があることが分かってきました。

特に歯周病と関係が深いのが糖尿病と指摘されています。

糖尿病になると唾液の分泌量が減って歯周病菌が増殖したり、免疫機能・組織修復力が低下し、さらに歯周病が発症・進行しやすくなっていきます。

一方で歯周病が進むと、大量のTNF-α(サイトカインという腫瘍を攻撃する物質の一つで、大量に産生されると他の炎症をおこす物質を作らせる)が分泌され、インスリンの働きを悪化させ糖尿病の発症と進行を助長するリスクがあるのです。

胃炎

以前はあまり知られていなかったピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)ですが、近年、このピロリ菌が発する毒素が、胃炎や十二指腸潰瘍、胃ガンを誘発することが一般的に知られてきました。

このピロリ菌ですが、実は歯周病とも関連があるのです。

歯周病が進行していくと、歯茎の歯周ポケットが深くなっていきますが、そのポケットの中にピロリ菌と非常によく似た性質を持つ歯周病原菌(カンピロパクター・レクタス)が増加していきます。

そして、この歯周病菌とピロリ菌による免疫反応が同時に発生すると、「歯周病」と「胃の病気」の両方が悪化するとも言われているのです。

実はこのピロリ菌に感染していると、胃だけでなく唾液や歯垢(プラーク)からもピロリ菌が検出されることが報告されています。

通常のピロリ菌の治療は薬を飲んで胃の中だけの除菌を行なうだけで、口の中の感染は見落とされがちですが、実は口の中の除菌も同時にしていかないと胃の中の除菌をしても、口の中から再感染する恐れもあるのです。

また、お母さんに注意して頂きたい事があります。

ピロリ菌は唾液では感染しませんが、親がお子さんに食べ物を咀嚼してから与えると感染するリスクがあるのです。

大切なお子さんに、母親経由でピロリ菌に感染させないようにして下さい。