歯内療法

私は歯を残す専門家です

歯科の治療において、歯科保存学という分野があります。
これは口腔内に天然の歯を保存するため(抜歯に至らないようにするため)の学問であり、この中に歯内療法という分野が含まれます。

歯内療法は、名称のように、主に歯の内部の色々な治療を扱う学問ですが、その領域は歯の内部のみならず、
歯の根(歯根)の周囲にある歯周組織(歯根膜、セメント質、歯槽骨、歯肉)も含まれます。

この歯内療法を学問として呼ぶ場合は「歯内療法学」、主に治療の部分を指す場合は「歯内療法」あるいは「歯内治療」と言います。

私は東京歯科大学を卒業して21年間、東京歯科大学歯内療法学講座に所属し、東京歯科大学千葉病院保存科、
そして東京歯科大学水道橋病院保存科にて診療に携わってまいりました。

特に大学院歯学研究科を卒業した翌年からは、主に一般の開業医からの歯内療法に関する紹介状をお持ちの患者様の診療を行い、
その紹介状の数は退職までに数千通におよびました。

このような貴重な経験をさせて頂いたことを基に、いくつかの項目について、
歯内療法の専門家としての立場から、五條歯科医院の歯内療法をご紹介したいと思います。

1.なぜ歯を保存することが大切なのか

義歯、インプラントは歯にはなりません

「なぜ歯を保存することが大切なのか」ということについて、ここでは主に歯内療法学の立場から見た歯の保存の意義について述べさせて頂きたいと思います。

歯は食べ物を咬み砕くばかりではなく、上下の顎の位置関係を決定するなど、多くの役割を担っており、口腔内では本来無くてはならない存在です。

従って、様々な事が原因で歯を失ってしまった場合は、そのスペースをブリッジや義歯、インプラントなど、何らかの形で補うことが必要となります。

義肢

インプラント

ブリッジ

入れ歯

しかしながら、これらはあくまでも人工物であり、体からしてみれば非自己の異物です。天然の歯の機能を完全に補えるものは残念ながら存在しません。義手や義足が、装着部位の機能を完全に補えないのと同じです。

歯を残すためにも神経にダメージを与えない

歯内療法では主に歯の内部の神経(歯髄組織)の保存と、歯髄組織を除去せざるを得なくなった際の歯根の保存を試みます。

歯髄の働きは、歯を構成している象牙質の形成や、冷たさなどを感じる感覚の受容、また象牙質への組織液の供給、外来刺激からの防御、などがあげられます。

この中でも象牙質への組織液の供給は重要で、歯髄が無くなってしまうと、この供給が停止し象牙質の機械的強度は徐々に低下することが知られています。

さらに、歯髄組織を除去するためには、歯の上部(歯冠部)から穴をあけて行いますが、この作業により、咬合(咬むこと)による歯への応力を効果的に分散しにくくなり、その結果歯根の破折(歯根破折)を起こす可能性が高まります。

もし歯根破折してしまった場合は、歯の保存が著しく困難あるいは不可能となることが多いと言えます。

またやむを得ず歯髄組織を除去した場合は、その空間を人工の材料(根管充填材)で埋めますが、歯髄組織が入っていた空間は非常に複雑な形態(根管系)をしており、その全てを完璧に充填封鎖するのは困難であるのが現実です。

よって充填材が到達しなかった空間に後日細菌が繁殖し、歯周組織の病気(根尖性歯周組織疾患)に移行することもあります。

もし、神経にダメージを与えたら

しかしながら、感染などによりやむを得ず歯髄組織を除去した場合は、非常に厳密な根管内部の処置(根管治療)と充填処置(根管充填)が必要となります。

歯髄組織を除去し根管充填された歯も、歯根の周囲にある歯根膜が生きているため、口腔内に保存することが可能です。

この歯内療法が施され生きた歯根膜が存在する歯根は、歯根膜組織による咬合(咬む力)の緩衝能力や、歯周ポケットからの免疫物質の放出など、天然歯に存在する一部の機能も一緒に保存されます。

これらはデンタルインプラントでは完全に補うことは出来ない機能であり、歯根だけになってしまっても口腔内に歯を保存する大きな意義のひとつと言えます。

2.歯内療法における診断の重要性

治療は診断が全て

歯内療法での疾患は、歯髄組織が物理・化学的刺激を受けたり、細菌の感染により炎症を惹起したりするいわゆる「歯髄炎」と、根管の感染などにより、主に根の先端部付近にある孔を通じて根尖周囲の歯周組織に炎症を惹起した「根尖性歯周炎」の2つが多く扱われます。

歯に痛みを感じ、歯内疾患が疑われる場合は、まずこの2つの疾患のうち、どちらに関係した痛みなのかを正確に診断する必要があります。

なぜならば、これら2つはその処置方針が全く異なるからです。

「誘発痛」と「自発痛」

また、痛みの種類も「誘発痛」と「自発痛」の2つに大別されます。

「誘発痛」とは、冷たい水がしみるなど、何らかの刺激が入力された際にその時だけ痛みを感じるものです。

また「自発痛」とは、何もしなくてもずっと痛いような場合を言います。

これは、歯および歯周組織の構造的な理由によるもので、例えば歯髄組織は歯の内部の閉鎖的空間に存在するので、内部で強い炎症性反応が起きた際に外部への炎症性滲出液の排泄が出来ず、歯髄の入っている空間(歯髄腔)の内圧が上昇したままになってしまいます。

そのような時は、歯髄組織内部の神経が常に圧迫状態になり、持続的な痛み、つまり「自発痛」となります。

また根尖性歯周炎においても、根の先端部周囲が歯槽骨に囲まれているので、急激な排膿などが起きた場合、同様に内圧の上昇が起き自発痛が発現します。

症状がなくても歯内疾患が存在することがある

一方、虫歯により歯髄腔に到達するような穴が開いていたり、歯根周囲の歯肉に膿の排泄孔(瘻孔)が開いていたりすると、炎症性滲出液はそこから排泄されてしまうため、内圧は上昇せず、さほど痛みを感じない、いわゆる慢性状態となります。

最初の診断が重要

以上のことから、歯髄炎と根尖性歯周炎の診断は、複雑な症状や所見を紐解いていく必要があり、単純な作業ではないことが多いのです。

歯を口腔内に少しでも長い期間保存させるには厳密な処置が必要ですが、そもそも処置を行うには、正確な診断が必要不可欠です。

また、例えば根尖性歯周炎の処置としては、歯の内部の無菌化を目指した感染根管治療(歯の根の治療)が行われますが、処置領域に齲蝕が残っていたり、歯根破折などがあったりする場合は治療そのものが成立せず、無意味なものとなってしまいます。

知識と経験と設備が適切な診断を下す

このように、厳密な診断が必要となる歯内療法の対象疾患ですが、処置も歯の内部に行うものがほとんどですので、肉眼では見えない領域に対して手を加えていくことに他なりません。

つまり肉眼で直視出来ない領域に対して、いかに正確な診断を行い、適切な処置を進めていけるかということになります。

近年では、この「見えない領域」に対して少しでも多くの情報を得る目的で、手術用顕微鏡の応用や、歯科用コーンビームCTの導入が行われつつあります。

手術用顕微鏡の根管治療への応用により、今まで全くの手探りであった根管内部の処置を、顕微鏡の光が届く範囲のみではありますが、拡大し直視することが可能となりました。

また歯科用コーンビームCTにより、今まで用いられてきた通常の口内法エックス線画像検査では決して見ることが出来なかった歯の断面像や病巣の奥行きを正確に知ることが出来るようになりました。

マイクロスコープ

このように近年では、歯内療法の領域も最新機器の導入などにより高度な進歩をとげていますが、これらの機器を使いこなし、より厳密・正確な診断や処置を行うためには、高い知識と技術の修得が必須です。

ただ機器類を購入し使ってみただけでは意味をなさず、結局はそれらを使う術者(歯科医師・歯科衛生士など)のスキルに大きく左右されると言って良いでしょう。

設備を生かすための従業員教育の実施

歯科用コーンビームCTは、目的箇所をより鮮明に撮影し多くの情報を得るためには、撮影時の患者様の頭部の位置づけなどから機器操作、撮影後の画像解析作業に至るまで、操作者の高いスキルが要求されます。

また手術用顕微鏡は、診断や処置の精度を格段に上げることが可能ですが、顕微鏡の画像を見ながら細かい処置作業を行うには、多くの専門的な訓練が必要であり、術者のスキルによるところが大きいのも事実です。

五條歯科医院には、これらの最新機器をフル活用するため訓練された優秀なスタッフと歯科医師が常駐しております。

3.正確な診断が困難なことがある理由とその対応策

それでも難しい歯内療法

私の20年以上の大学病院での診療の中で、かかりつけの歯科医院での根管治療がうまくいかず紹介状を持参した数千名の患者様のうち、その多くを占めていたのが、いわゆる診断がきちんと出来ていないことにより治療が非常に長引いているものでした。

例えば、歯根が破折していることが診断出来ておらず、延々と治るはずのない感染根管治療を続けていたり、処置されていない根があるのに気が付いていなかったりするものです。

難しいには理由がある

このような診断の難しさは、歯内療法が直視困難な箇所の診断を要求されることや、天然の歯は1本たりとも同じ形のものが無く、イレギュラーなものが多く存在するということなどが原因となります。

また歯内療法では感染を相手にすることが多いのですが、感染をコントロールすることは非常に繊細な作業です。

きれいに齲蝕を除去することから始まり、唾液が入らないように隔壁を作製(齲蝕などで歯が無くなってしまったところに作る樹脂などによる人工の壁)し、処置中はラバーダム防湿法(処置中に唾液などが入らないようにするためゴムのシートを装着すること)の併用、厳密な仮封(仮の蓋)など、徹底した感染対策が必須となります。

難しいからこそ起きる問題

以上のように、歯内療法は非常に多くの知識と高い技術を求められるものであり、場合によってはその診断や処置も困難を極めることがあります。

しかしながら、厳密にやろうとすればするほど手間や費用がかかる一方、その保険点数は決して高くはなく、かけられる時間や材料(薬剤)などにも限界が生じるのもまた現状です。

多くの歯は、一般的な根管治療で治癒に導くことが可能ですが、前述のように患者様の歯は1本たりとも同じ形のものは存在しないため、たまたま難しい形態や条件の歯が歯内療法の対象となってしまうことも避けられないと考えられます。

従って、もしそのような歯に根管治療を施さなければならなくなった際に、いつでも余裕をもって対応出来るだけの知識、技術、設備が整っていることが大切であると考えられます。

五條歯科医院には難しい治療を受け入れる態勢があります