「あと20年あるからバリバリ食べたい」80歳と
「もう定年だからほどほどでよい」65歳どちらが健康的だと思いますか?
何らかの理由で歯を一本失ってしまった方で、両隣りの歯を削ってブリッジにするか、入れ歯にするか、もしくはインプラントを入れるか、迷った経験がある方は多いのではないでしょうか。
失った歯を補うという点では、ブリッジも入れ歯もインプラントも違いはありませんが、インプラント治療は他の歯に負担をかけないという点で、ブリッジや入れ歯と大きく異なります。
インプラント治療は、顎の骨に穴を開けてインプラント(人工歯根)を入れ、冠を被せて元の歯の状態のようにする治療法です。
インプラントによって顎の骨に支えられた歯が増えるため、残っている歯に負担がかからずに済みます。
一方で、ブリッジや入れ歯は顎の骨で固定するのではなく、残っている歯で支えるため、支えとなっている歯に大きな負担がかかります。

そういった意味ではインプラント治療は最良の治療方法と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、全ての方にインプラント治療が適用されるわけではありません。
心筋梗塞、高血圧、などの循環器疾患の方、肝臓・腎臓疾患及び免疫疾患の方、骨粗しょう症の方、顎の骨の厚みや高さが足りない方、糖尿病の方、妊娠中の方、顎の骨が成長しきっていないお子様などはインプラント治療を受けることができません。
インプラント治療も100%成功するわけではありませんので心配な面もあるとは思いますが、将来にわたってできるだけ多く自分の歯で食事を楽しむためにはとても有効な治療であるといえます。
仮に奥歯を一本失ってしまった場合、他の歯への負担は40%以上高くなるといわれています。
失った歯をそのままにしておくと、残っている歯に余計な力が加わり続け、やがて失った歯の周りから徐々に残っている歯も失われていくことになります。
ぜひ、残っている歯を削ったり、失っりする前にインプラント治療を検討されてみてはいかがでしょうか。
インプラントの材質
生体親和性の高いチタン
インプラントの材質は純チタンやチタン合金、チタンの表面に特殊な処理をしたものが主流になっています。
チタンは、極めて生体親和性の高い材質で、骨と結合するという特徴を持っています。
この特徴は、1952年にスウェーデンのブローネマルク教授によって偶然発見されました。実験を通してチタンは生体親和性の高い金属であることが証明され、チタン製のインプラントが使われるようになりました。
インプラントの材質であるチタンは、人体に異物として認識されずに新しい骨がチタンの周囲に取りついていきます。そして、チタンの表面の細かい部分にまで骨が入り込んでいき、インプラントと骨が結合状態になります。
ただし、インプラントと骨との結合は、インプラントの表面の状態によって差が生じます。表面が滑らかなインプラントよりも、表面が僅かに粗いタイプのほうが、より強固な結合が得られると考えられています。

歯を一本失った場合の治療法の比較
インプラント | ブリッジ | 義歯(入れ歯) |
---|---|---|
![]() |
![]() |
![]() |
特徴 | ||
|
|
|
治療期間・費用 | ||
約半年 35万円(税別)~ |
約2週間 保険適応、自費の場合は30万円(税別)程度 |
約2週間 保険適応、自費の場合は10万円(税別)程度 |
ブリッジとの比較
ブリッジは両隣りの歯を削ったり、かむ力の負担を両隣りの歯にかけることになります。また、歯科疾患が生じた場合にブリッジを全て外して治療する必要があります。
その点、インプラント治療は失った歯の部分だけで治療を行うことができます。
しかし、ブリッジはインプラントのように外科処置を必要とせずにかみ心地を保てるため、インプラントが心配な方には有効な治療法です。
入れ歯との比較
入れ歯は毎食後自分で取り外し、洗浄する必要があります。また、硬いものや粘着性のものはかむことができません。
しかし、インプラントは歯を骨に固定しているために取り外さずに歯みがきができます。そして、硬いものや粘着性のものもかむことができます。
インプラント治療のように外科処置をせず、ブリッジのように歯を削りたくない方には有効な手段です。
見た目に入れ歯とはわかりにくいスマイルデンチャーもございます。
インプラント治療のメリット
1.周りの歯を削らない
歯を失った部分をブリッジ治療で行うと周りの歯を削る必要があります。歯は一度削ってしまうとやり直し続けなければいけません。インプラント治療を行うことによって残っている歯を削らず、綺麗な状態で維持することができます。
2.周りの歯の負担を軽減できる
歯を失った部分に入れ歯やブリッジを行うと、残っている歯に大きな負担がかかり寿命が短くなってしまいます。インプラント治療をすることによって残っている歯の負担を軽減し、周りの歯が揺れてきたり、割れてしまったりするのを防ぐことができます。
3.悪くなった部分のみ治療することができる
ブリッジや入れ歯の場合、土台にしている歯がむし歯や歯周病になってしまってその部分の治療をすると土台となる歯の形が変わってしまうので、またその形に合わせたブリッジや入れ歯を再作成する必要があり、費用もかかってしまいます。
インプラントの場合はそれぞれ独立しているものが多いので、悪くなった部分だけを治療すれば済みます。
4.両隣りの歯がむし歯になりにくい
ブリッジは失った歯の両隣りの健康な歯を削って被せるため、削られた歯は弱くなると同時に歯ブラシでは磨きづらい環境になるためむし歯になりやすくなります。
インプラント治療は、周囲の歯を削ったりする必要がなく、歯みがきもできるのでブリッジと比べてむし歯になりにくいといえます。
5.口の中の清潔が維持できる
歯が抜けて放置をすると、食べかすが停留して汚れがたまりやすくなります。入れ歯の場合はその素材にプラスチックを利用するため、経年劣化とともに汚れが溜まりやすくなります。インプラントならば、歯同様に機能することで汚れが停留したり、インプラントそのものに汚れがこびりつくことは少なくできます。
6.口の機能を維持することができる
歯がなくなったとしてもそこを補うものができるということは、機能が衰えて行くことを防ぐことができることを意味します。義歯の場合、人工の歯の部分は徐々に劣化しすり減っていきます。そのスピードは人にもよりますが、許容耐用年数は2年程度とも言われています。インプラントはしっかりとメンテナンスさえすれば10年以上長持ちします。
7.介護予防
残存歯数が少ない人ほど、脳の海馬や前頭葉の容積が小さくなることが分かりました。
認知症ではない人は、残っている歯の数が平均約15本であるのに対して、認知症になっている人の歯の数は、平均約9.5本でした。この結果から、お口の中の歯の3分の2を失うと、認知症のリスクが高まると考えられます。インプラントで歯の本数を回復することは認知症や介護の予防につながります。
8.健康長寿
65歳以上の日本人2万人以上を対象とした4年間の調査では、残った歯の数が少ない人ほど寿命が短くなることが明らかになってます。死亡率は、20歯以上の人に比べて、10~19歯の人で1.3倍、0~9歯の人で1.7倍に上昇していきます。失った歯を取り戻すことは長寿にも寄与します。人生100年の時代に、バラ色の老後を過ごすかどうかは歯にかかっていると言っても過言ではありません。
インプラント治療のデメリット
1.外科処置が必要
インプラント治療は、歯を根まで失ってしまった場合(根が残っていれば差し歯になります)、その部分の顎の骨に人工歯根(インプラント)を埋め込む治療法です。人工歯根(インプラント)を埋入する外科処置が必要ですので、部分麻酔を使用します。術後、場合によっては腫れや痛み、内出血などが起こることがあります。また、手術時に大きな神経や血管を傷つけてしまうと出血が止まらなかったり、麻痺が残ってしまうことがあります。
なるべく失敗しないために
当院では、インプラント埋入手術をできるだけ失敗しないために、サージカルガイドを使っています。
サージカルガイドはインプラントの治療前にCTでインプラントの埋入位置や神経・血管を確認して製作したインプラント手術用の穴のあいたマウスピースです。
2.全てのインプラントが骨と結合するわけではない
インプラントは顎の骨の中に入れた後、インプラントと骨が結合状態になり噛むことができます。しかし、稀にインプラントが骨と結合せずに動いてしまうことがあります。特に、口腔内環境が悪い状態のまま長期間治療をしなかった歯は、抜歯をしても周りの骨が元の状態に戻りにくく、インプラントを入れても骨と結合しないことがあります。
顎の骨が足りない場合
顎の骨の厚みや高さが足りずにインプラント埋入が困難な方は、あらかじめ人工の骨や自分の骨を移植し、骨を作ってからインプラント埋入手術を行うようにします。
3.重度の糖尿病や骨粗鬆症の方は出来ない
インプラント治療は全ての方にできる治療ではありません。重度の糖尿病や骨粗鬆症の方はインプラント治療をしてもインプラントと骨が付かなかったり、治療後に歯茎や骨が治りにくかったりします。
体の状態を改善する
かかりつけの医師と相談の上、インプラント治療が可能かどうかの判断をします。糖尿病がコントロールされて外科的な処置に耐えられる状態になっているか。骨粗鬆症の薬を止めても大丈夫な骨の固さなのかなど検討した上で治療を行う判断をします。
4.メンテナンスしないと歯周病になる
インプラントはメンテナンスを怠ってしまうと歯周病で抜けてきてしまうことがあります。インプラントも歯と同じように歯石が付きます。インプラントは歯よりも防御する力が弱いため、インプラントの周りに細菌が残っていると、歯茎が腫れたり、膿が出たり、揺れてきたりすることがあります。
インプラントを長持ちさせるために
毎日歯磨きをしていても、磨き残しで歯石や汚れが残ってしまう部分は定期的に歯科医院でクリーニングを行い、インプラントを歯周病から守る必要があります。
5.治療に時間がかかる
インプラント治療は外科処置をしてすぐに冠を被せて終わりではありません。CT検査やかみ合わせの確認、インプラントが骨と結合するのを待つ期間など最低3ヶ月程度はかかります。
見た目を早く改善させる
仮歯を使って見た目やかみ合わせを早期に改善させます。インプラント埋入してすぐに仮歯が入れば、歯がない期間を短くすることができます。
最終的に被せる冠は何十年も使用するものなのでかみ合わせや歯茎が安定してから作製します。
6.保険診療ではできない
インプラント治療は一部の特殊な場合を除いては保険診療で行うことはできません。自費診療となり35万円程度かかります。
インプラント治療の流れ
インプラント治療の流れをわかりやすくまとめました。
インプラントを入れる部分の骨をCTレントゲン撮影し、骨の厚みや幅、神経や血管の位置を3次元的に確認します。
次に、インプラントの長さや太さを決め、計画を立てます。インプラント用のシミュレーションソフトを使い、計画した場所にインプラントが入るように処置をします。

一本のインプラントであれば、歯の治療で使う部分麻酔を行い、20分程度で終わります。痛みや腫れはほとんどない場合が多いです。骨が少なくなっていて、同日に骨の移植などを行う場合は腫れることがあります。

インプラントは顎の骨と結合し、噛む力に耐えることができます。インプラントを入れてから3ヶ月程度するとインプラントが安定し、硬いものをかんでも抜けることはなくなります。

インプラントが骨と結合した後、インプラントの土台であるアバットメントや被せ物をつけていきます。かみ合わせを確認しながら徐々に硬いものがかめるようにしていきます。

インプラントを長く維持させるにはメンテナンスが必要です。ご自身で行う毎日のホームケアと定期的な歯科医院でのクリーニングを行い、インプラントの周囲に細菌がつかないようにしていきます。
当院のインプラント治療のポイント
インプラントは顎の骨の中にチタン製の人工歯根であるインプラントを埋入します。顎の骨の厚みや高さ、血管や神経の位置を3次元的に確認しないと大きな事故につながることがあります。
そのためインプラント治療を行う前にCTレントゲンで検査してくれるところをおすすめします。
定期的にメンテナンスしないとインプラントの周りに歯石が付着しやがては歯周病になり、インプラントが抜け落ちてしまいます。治療だけでなくメンテナンスもしっかりしてくれる歯科医院をおすすめします。
毎日の口腔ケア
残っている歯をこれ以上減らさないようにしっかりと口腔ケアをしましょう。自分の歯が歯周病にならない環境であれば、インプラントも同じようにいい状態で口の中で機能し続けることができます。
成人が歯を失う2大疾患は、40%は歯周病で、30%はむし歯です。インプラントは人工物なのでむし歯にならないことを考えると、歯周病の予防ができれば70%の確率でインプラントを守ることができます。
口腔ケアを怠ってインプラント以外の自分の歯を失ってしまうと、今まで以上にインプラントにかみ合わせの負担がかかりインプラントの寿命を短くする原因になります。
インプラントを長持ちさせるために日頃の口腔ケアを心がけましょう。
歯科医院での定期的なメンテナンス
歯周病はホームケアだけでは防ぐことができません。歯周ポケット内の細菌を歯科医院で定期的に取り除くことによって歯周病予防ができます。
インプラントも同じようにホームケアだけでは歯石が付いてもそのままになり、歯周病が進行してしまいます。定期的に歯科医院でクリーニングしてもらいましょう。
かみ合わせの調整
歯は根の周りに歯根膜(しこんまく)というクッションが存在します。また、他の歯よりも高さのある歯は擦り減ることによって一本だけがかみ合わせで強く当たるのを防いでいます。
インプラントは顎の骨と直接つながっているため、クッションになるものがありません。被せ物の多くはセラミックを使っているため、擦り減りが少なく、時間の経過とともにインプラントだけが強く当たる状態になってきます。
そこで定期的なかみ合わせの調整が必要となります。インプラントに被せてあるセラミックが欠けたり、割れたりすることがありますが、インプラントを守るという意味では良いことなのです。
マウスピースを装着
歯ぎしりが強い人は自身の歯も擦り減らしたり、割れたり、揺れてきたりします。インプラントも同じような力が加われば被せものが割れるか、インプラント自体が揺れてきてしまいます。そのため歯ぎしりがある方は自分の歯を守る意味でもマウスピースを使用する必要があります。
健康管理も重要
インプラントの寿命を延ばすには植えられている骨が健康でなくてはなりません。糖尿病や骨粗しょう症など骨が弱くなってしまう病気になってしまうと、歯やインプラント周囲の骨も弱くなり歯周病になりやすくなってしまいます。糖尿病や骨粗しょう症にならないように健康管理を心がけましょう。
インプラントは安いものから、高いものまで、世界で何十種類と発売されています。体の骨の中に入れるため、あまり安価なインプラントを使ってしまうと、骨の中で折れてしまったり、インプラントメーカーが撤退して土台や被せ物をやり直せなくなることがあります。多少高価でも世界シェアのある安全性の高いインプラントを使った方がインプラントの寿命を延ばすことができます。
インプラントの位置や方向はインプラントを長く使うためにはとても重要です。位置によって汚れのつき具合はやかみ合わせが変わり、方向によってかむ時に加わる力の方向が変わります。短い期間ではそれほど変化はありませんが、何十年と使っていくうちにその小さなズレが顎の骨の異常につながります。そのため緻密で正確なインプラントの設計と手術が必要なのです。
経験豊富な専門医陣による施術
当院理事長の五條はADIA(米国歯科インプラント学会)にて専門医を取得しています。
また施術の主な担当を行う竹島明道医師は日本口腔インプラント学会の専門医を取得しています。
竹島明道 医師
略歴
- 公益社団法人日本歯科医師会:会員
- 公益社団法人日本口腔インプラント学会:専門医(709号)、代議員、関東・甲信越学術委員
- 公益社団法人日本歯科先端技術研究所:専務理事、JIAD口腔インプラント認定医(357号)・指導医(172号)、軽度認知障害支援歯科医(10号)
- 一般社団法人日本歯内療法学会:会員、関東歯内療法学会:理事
- ITI Member、日本支部公認インプラントスペシャリスト(スペシャリスト一覧)
(ITI)…The International Team for Implantology - 日本顕微鏡歯科学会:会員
- 日本老年歯科医学会:会員
- 東京歯科大学学会:会員
- 東海大学医学部医学科外科学系口腔外科学:非常勤講師

書籍紹介
歯科専門書籍 連載中
インプラント専門誌「インプラントジャーナル」(ゼニス出版)
2013年50号から現在まで、継続して執筆中。
- テーマの一例
- インプラント臨床の一ヒント/ライフステージを考慮した木をみて森をみて季節をみる歯科医療の実践をめざして
- インプラント臨床の一考察/インプラント治療が持つ法歯学的意義と治療記録の重要性
- 誌上座談会 インプラントの定説を再考する…菅原明喜+富樫宏明+竹島明道
- など