ご家族から聞く病院での口腔ケア体験

*協調ケアとは、医科と歯科が連携してケアしていくこと

現在、お母様のご年齢は95歳ですが、どういった経緯で入院されたのでしょうか。
83歳の時に大腸がんをかかりつけ医の方が見つけてくれました。入院し手術をしましたが、元気そのものといった感じで無事退院してきました。退院後も、一人で料理もできる普通の生活を過ごすことができていました。歯が丈夫で、定期的に近くの歯科医院で検診を受けていたので、メザシもバリバリと食べることができるような人でした。家では毎食後しっかり歯を磨き、炒った硬いそら豆が好物な母でした。
ところが、91歳の時に、家の中で転んで肩を脱臼して近くの老健施設に入ることになりました。しかし入所し二週間もしたら、「あの先生は怪しい」とか妄想を言ったり、目が座っておかしくなってきのです。

自宅での転倒から急激に体調を崩てしいき
食事もできなくなり命の危機に

肩を脱臼したことから、人はそんなにも変化をしてしまうものなのですね。
そうなんです、急激に変化が始まりました。
施設には、置いておけないとのことで家に連れて帰ることになりました。私も3ヶ月間の介護休暇を取り、つきっきりで家で看ることになりました。仕事をしていた私が一番のストレスを感じていた時期でした。元気だった母がこんなにも変貌するのかと愕然としました。
93歳のクリスマスごろに血便が出て救急車で救急病院に搬送されることになりました。腸閉塞との診断でしたが、入院中に院内でインフルエンザに罹り、覚悟を決めていたところ無事乗り越えることができました。
長いこと救急病院にいることはできませんので、現在の一般病院に移動をすることになり現在に至っています。
硬いそら豆も食べられるような立派な口を持っていたお母様ですが、病気になってからはどのような食事を摂っていたのでしょうか。
がんになっても老健施設に行っても普通の食事が取れていた母ですが、救急病院に入ってから全く食べられなくなりました。飲み込むことができないとの判断で、点滴のみで栄養を摂る状態になりました。急激に言葉も出せなくなり、このまま看取るのかと思ったぐらいでした。

口腔ケアから徐々にコミュニケーション能力が回復

その間に口の中の変化に何か気づかれましたか。
看護師さんもケアしてくれているのでしょうが、口の中がガビガビと乾燥状態になっているなと思いました。喋る事も食べる事もできずに、見ていてかわいそうな状態でした。
そして、今の病院に移ってから現在のところまでで約1年間、私たちの関わりが始まりました。きっかけは、看護師さんから「口を開けてくれない患者さんがいてなんとかならないか」という相談からです。いちばん初めに行った時はご家族がおっしゃるようにガビガビで、乾いた痰がこびりついている状態でした。1年継続して、看護師さんと我々の違いを何か感じられたと思いますがそれはなんでしょうか。
見た目にも明らかに違います。喜怒哀楽が出てきて、表情が戻りつつあります。先生から「毎日見舞いに来ているなら、一緒に口腔ケアやりませんか」と言われましたよね。そこから母とのコミュニケーションが取れるようになりました。
タッチケアはご存知でしょうか。ゆっくりと体に触れながら同じ話を何回もしてあげる。そうすることで自分も相手も心が穏やかになって不安な感情がなくなっていくそんなケアの仕方です。
それまでは食事の話をするなんて気の毒だと思っていました。ところが、ゆっくりと頭を撫で、口の中を潤うようにして、話しかけてあげると明らかに変わるようになりました。今日何を食べたとか日常の話をすると、それがわかるようで反応があるのです。「今日も歯をやろうか」と言って口腔ケアすると、どんどん覚醒して来て家族と看護師との話にも反応して頷く事もできるようになりました。

看護師さんとの訪問歯科の協調ケアの効果

口の中は体の中でもいちばん敏感なところなんです。僕らもタッチケアの一部を担う事で心が穏やかになります。
ところで、舌にうろこ状の汚れがついたり、唇がひび割れしたりするのはなんとかならないのでしょうか。リップクリーム塗るとかはダメですか?
決して効果がないわけではないと思います。我々も週に一回伺って、あの舌の汚れを取るのに20分ぐらいかけてやりますので。乾燥には、保湿をしっかりやってもらうしかないですね。口を閉じることができるならありがたいのですが。
専門家が20分かかるのならば、看護師さんには難しいですね。
看護師さんも尽力はされていますけど限界はありますよね。訪問診療を受けて見てどうですか。
私は良かったと思っています。こんなサービスがあることを知りませんでした。看護師さんに物足りなさを感じているわけではないのですが、家族としてよかったです。入院してしまうと体も口もひっくるめて、看護師さんに看てもらうことになりますが、口のことは歯科の専門家に看てもらうのは良いことだと思いました。病院や医師、看護師さんからも「別途料金はかかるけど、こんなサービスがあるんだよ」ともっと早く教えて欲しかったです。
最後に、歯科に対して何か要望はありますか。
もっと、歯が大切であることを啓蒙して欲しいです。QOLを維持するためにも軽視してはいけないのだとアナウンスしてください。
社会に訴えることができるよう私たちも尽力します。お話に勇気付けられ、また明日からの診療に励みになりました。今日はありがとうございました。