
20年の金沢文庫で見えてきた「修復物の寿命」と予防歯科の考え方
金沢文庫で五條歯科医院が開院して20年。
当院では、開院初期に治療した歯の“経年変化”を多く見るようになりました。
そのたびに実感するのは、
治療した歯にも、確実に“寿命”がある
そして寿命は、予防で大きく変わる
という事実です。
この視点は、予防歯科の世界で広く引用されている
岡山大学・森田 学先生の代表的研究とも一致しています。
1.森田先生が示した「修復物の寿命」の重要性
元岡山大学・森田 学教授は、日本の予防歯科を語るうえで欠かせない存在です。
その中でも特に知られているのが、
「修復物の長期存続(Longevity of Dental Restorations)」に関する一連の研究です。
森田先生は、修復物(詰め物・被せ物)が“どれくらい持つのか”を
長期追跡データから解析し、
・詰め物・被せ物には明確な寿命がある
・再治療の多くは「二次むし歯」によるもの
・予防行動(定期受診・プラーク管理)が寿命を大幅に伸ばす
という、予防歯科の根幹となる考え方を示しました。
五條歯科医院が20年間の診療で見てきた現実と、
このエビデンスは完全に一致しています。
2.20年前に治した歯……じつは“寿命のタイミング”です
一般的な修復物の耐用年数は次のとおりです。
・レジン(白い詰め物)……5〜7年
・金属インレー・クラウン……7〜10年
・セラミック修復……10〜15年
森田先生の研究でも、
「10年以上経過した修復物は一度チェックすべき」
という臨床的提言がなされています。
つまり
五條歯科医院の“開院初期(20年前)に治した歯”は、 ちょうど再評価の時期に来ている
といえます。
痛みがなくても、
中で接着剤が劣化したり、段差に汚れが入り込んだり、
むし歯が静かに進行していることがあります。
3.再治療の最大の原因は、“二次むし歯”
森田先生の研究でも、
再治療に至る最も多い原因は 「二次むし歯(セカンドカリエス)」でした。
これは、
歯と修復物の“境目の段差”に細菌が集まることが原因です。
・初期は痛みが出ない
・レントゲンで初めて分かることがある
・気づいたときには神経まで進んでいることもある
これが、治療済みの歯の怖いところです。
4.五條歯科医院の20年で分かったこと
——予防を続けている患者さんは寿命が明らかに違う
五條歯科医院では開院当初から予防歯科を軸にしており、
長期のメインテナンス患者が多くいらっしゃいます。
20年の臨床経験から断言できること——
定期的にメインテナンスを受けている方は、
治した歯が長く持つ。
これは森田先生の論文が示すデータとも完全に一致します。
・プラークの管理状態が良い
・段差の早期発見ができる
・食いしばりや歯ぎしりの影響を把握できる
・裁量的な(削らない)治療の選択肢が広がる
結果として、再治療の間隔が伸び、歯の寿命につながります。
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5.森田先生が提唱した「レストレーションサイクル」を断ち切る
森田先生の大きな功績のひとつが、
“レストレーションサイクル”という考え方を、
日本の予防歯科に根付かせたことです。
レストレーションサイクルとは、
- むし歯 → 詰め物・被せ物
- 劣化 → 二次むし歯
- 再治療 → 歯が少しずつ削られる
- さらに弱くなる
- 最終的に抜歯へ
という、「治療すればするほど歯が弱る」現象です。
このサイクルを止める唯一の方法が、
治療よりも“予防”を中心に置くこと
五條歯科医院が20年間ずっと大切にしてきた診療の柱です。
6.20年前の治療の見直し、今がベストタイミングです
五條歯科医院に通う患者さんの中でも、
・詰め物が突然取れた
・痛くないのに中で大きなむし歯
・被せ物の境目に黒い影
・食いしばりによる破損
・歯ぐきが下がって段差が露出
こういったケースは珍しくありません。
2005〜2010年に治した歯がある方は、一度チェックすることを強くおすすめします。
参考文献(森田先生中心の簡潔版)
Selected Evidence List
- Mori T.
Study on the longevity of dental restorations in patients.
Dentistry in Japan, 2007.
- Morita M.(森田 学)
予防歯科・口腔清掃・長期追跡研究に関する関連文献(岡山大学 医歯薬学総合研究科)。
- Mjör IA.
Reasons for replacement of restorations.
Oper Dent., 2000.
- Elderton RJ.
The restoration cycle concept.
Br Dent J., 1990.